本番前の緊張に負けないためのクラリネット奏者メンタル術!

演奏テクニック&練習法

演奏の本番前、心臓がドキドキして指先が冷たくなる―楽器奏者なら誰もが経験する「緊張」。筆者自身、何年演奏を続けても「本番前の緊張」が完全になくなったことはありません。むしろ、大切な舞台ほど緊張は強くなるものです。

しかし、ある時から「緊張をなくそう」とするのをやめ、「緊張とうまく付き合う」ことに意識を向けるようになりました。すると、本番での音色や集中力が明らかに変わってきたのです。

この記事では、クラリネット奏者としての体験談を交えながら、本番前の緊張対策・メンタルアップ方法を具体的にお伝えします。コンクール、発表会、オーケストラや吹奏楽の本番など、あらゆる場面で役立つ内容です。

クラリネット奏者が、本番前に緊張してしまう原因は?

息・アンブシュア・指のバランスが極めて繊細

クラリネットは、息のスピードや量、アンブシュアの締め具合、指の動きが少しでも崩れると、音色や音程にすぐ影響が出ます。本番では無意識に力が入りやすく、その「わずかなズレ」が音として表れてしまうため、不安が増幅しやすいのだと筆者は考えています。特に高音域や弱音では、普段の練習以上にコントロール力が求められ、「ちゃんと鳴るだろうか」という気持ちが緊張につながります。

リードや楽器コンディションへの不安

クラリネット奏者にとって、リードの状態は演奏の成否を左右する重要な要素です。本番当日に、思ったより鳴らない、楽器の反応が重い・軽い、湿度や気温で感覚が違うといった変化が起きることも少なくありません。「自分ではコントロールしきれない要素」があることが、精神的なプレッシャーになりやすいのです。

指のミスが“音として目立ちやすい”楽器

クラリネットは旋律を担当する場面が多く、音を外したり指がもつれたりすると、ミスがはっきり聴こえてしまいます。そのため、「速いパッセージで指が回るか」 「跳躍で音を外さないか」といった不安が、本番前に頭を占領しやすくなります。

過去の本番経験が影響する

過去に本番で失敗した経験があると、似たような場面が近づいたときに、その記憶がよみがえります。私自身も、以前失敗した入りのフレーズが近づくと、急に息が浅くなった経験があります。これは決して意志が弱いからではなく、脳が「危険を回避しよう」としている自然な反応です。

真面目で責任感が強い奏者ほど緊張しやすい

チームで演奏をしていますから、演奏者は、周囲と音を合わせたい、迷惑をかけたくない、良い演奏を届けたいという思いが強い人が多い傾向があります。この責任感の強さが、結果として自分にプレッシャーをかけ、緊張を高めてしまうのです。

本番の緊張は悪くない|クラリネット演奏に必要な理由

まずお伝えしたいのは、緊張そのものは決して悪いものではないということです。緊張は、

・集中力を高める
・感覚を研ぎ澄ます
・本番に向けて身体を準備させる

というプラスの役割も持っています。問題なのは、「緊張=ダメな状態」と思い込み、必要以上に怖がってしまうことです。

筆者はある本番で、舞台袖で極度に緊張している自分に気づき、

「緊張している=今日の演奏を大切に思っている証拠」
と言い聞かせました。その瞬間、少し呼吸が楽になり、音に集中できたのを今でも覚えています。

筆者実践!緊張対策

メンタル安定:本番前の呼吸法

筆者自身に、最も即効性があるのが「呼吸」です。本番前に必ず行っているは、以下の呼吸法です。

1. 鼻から4秒かけて息を吸う
2. 2秒止める
3. 口から6〜8秒かけてゆっくり吐く

これを3〜5回繰り返します。ポイントは「吐く時間を長くする」こと。副交感神経が優位になり、心拍数が落ち着きます。舞台袖で立っている時でも、椅子に座った状態でもできるため、直前でも実践しやすい方法です。

集中力を高める:イメージトレーニング

緊張している時ほど、「ミスしないように」「指を間違えないように」と頭の中で注意点ばかりを並べてしまいがちです。しかしこの状態では、身体が“確認モード”に入り、指や息の動きがかえって不自然になります。

そこで筆者が取り入れているのがイメージトレーニングです。本番前に、以下のことを意識して曲をイメージします。

・フレーズが自然につながっていく様子
・音楽の山と谷をなぞるような流れ
・次に出したい音色が空間に広がる感覚

実際に指を細かく意識するのではなく、「こういう音楽を奏でたい」という完成イメージを先に描くことで、身体がそのイメージに沿って自然に反応してくれる感覚があります。

あるソロの本番で、速いパッセージを前に極度に緊張したことがありました。その時、「ここは歌うフレーズ!」と思い出し、頭の中で旋律を歌いながら吹いたところ、不思議と指が自然に動いたのです。

緊張をコントロールする:本番前ルーティン

緊張を和らげるために非常に効果的なのが「本番前ルーティン」です。これは音楽に限らず、多くのスポーツ選手も取り入れている方法です。

たとえば野球選手が、打席に入る前に必ず同じ動作を繰り返したり、テニス選手がサーブ前にボールをつく回数を決めていたりするのを見たことがある方も多いでしょう。これらのルーティンには、「今から自分のパフォーマンスに集中する」というスイッチを入れ、過度な緊張を抑える役割があります。

クラリネットの本番前ルーティンも考え方は同じです。

・楽器を組み立てる順番    ・基礎練習の順番
・ロングトーンを吹く音域   ・最後に必ず吹くフレーズ

筆者は、特に大事な本番の前は、毎回同じ流れで行っています。この一連の動作を繰り返すことで、脳が「これはいつも通りの準備だ」「特別な状況ではない」と認識し、余計な不安を感じにくくなります。

トラブル対応:失敗が怖くなくなるメンタル準備

経験もあると思いますが、「失敗しないように」と思うほど緊張は強くなります。筆者はあえて、

  • 音を外したらどう立て直すか
  • リードの調子が悪くなったら、どのタイミングで変更するか

の対処を事前に考えておきます。一度、本番で高音が割れたことがありましたが、「次のフレーズで息を深く入れ直す」と決めていたおかげで、演奏を崩さずに続けることができました。「最悪の事態でも対応できる」という安心感は、想像以上にメンタルを支えてくれます。

 本番後の振り返りでメンタルが強くなる

メンタルアップは本番前だけでなく、本番後の過ごし方も重要です。筆者は演奏後、

・できたことを3つ書く
・反省点は1〜2点だけに絞る

ようにしています。以前はミスばかりに目が向き、「やっぱり本番に弱い」と自己評価を下げていました。しかし、できた点を言語化し、自分を誉めてあげることで「本番でもできる自分」という感覚が少しずつ積み重なっていきました。

緊張に強い奏者になるために必要な考え方

緊張に強い奏者とは、「緊張しない人」ではなく、「緊張した状態でも音楽に集中し、演奏を続けてきた経験を積み重ねてきた人」だと、私は感じています。

たとえ小さな本番であっても、「人前で吹いた経験」や「緊張の中でも最後までやり切れた記憶」は、確実に蓄積されていきます。その一つひとつが、『緊張しても大丈夫だった自分』という実感となり、次の本番で心を支えてくれる大きな土台になります。

まとめ

本番前の緊張は、演奏者にとって避けられないものです。しかし、考え方と準備次第で、緊張は「敵」から「味方」に変わります。もし今、緊張で悩んでいるなら、それは真剣に音楽と向き合っている証拠です。少しずつ自分なりの対処法を見つけ、本番のステージを楽しめる瞬間が増えていくことを願っています。

緊張と共に音楽を奏でる―それもまた、クラリネットの奥深さの一つなのかもしれません。

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